2014年6月20日金曜日

伝説の書物、編集秘話

みなさま、こんにちは。編集部Nです。

創元社社員の「こだわりの一冊」第4弾!ということで、今回は創元社編集部W部長にインタビューしてまいりました。

選ばれた一冊はこちら!


『赤の書 THE RED BOOK』
C・G・ユング著/ソヌ・シャムダサーニ編/河合俊雄監訳/田中康裕、高月玲子、猪股剛訳
定価(本体40,000円+税) A3判変形上製 456頁 2010年6月刊行

〈内容紹介〉
フロイトとともに、20世紀の心理学に大きな足跡を残したC・G・ユング。本書は、彼が16年余にわたって私的な日記として書き綴り、死後、半世紀ものあいだ非公開のまま眠っていた伝説の書物である。そこには、ユング思想の中核をなす概念の萌芽が、ほぼすべて網羅されている。美しいカリグラフィーによる文面、強烈なヴィジョンの体験を極彩色の緻密な構成で描きだした134点もの絵の数々。ここに描かれているのは、人間の無意識の深遠なる未踏の世界そのものである。


世界各国から注目を集めた伝説の書物。その日本語版の編集を一手に引き受けたW部長が語る編集秘話をたっぷりとお聞きください。

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――『赤の書』を選ばれた理由は何でしょうか?

なんと言っても、20世紀の代表的な知識人の一人であるユングの思想の中核部分に触れることができる、一次資料だからです。
また、企画から刊行まで10年ほどかかっていて、私にはとても思い入れの深い本でもあります。

――随分タイトなスケジュールだったとお聞きしています。

これまで作った本の中でいちばんスケジュールがきつかった本で、最後の追い込みの1ヵ月は、会社近くのホテルに泊まり込んで家に帰れませんでした。でも、そのぶん、やりがいもありましたね。本作りが終わってから社内の人に、「よく生きて帰ってきたね」と言われて、孤独な作業からようやく解放されて現実の世界に戻ってきたんだ、という実感が湧いたのを思い出します。

――「生きて帰ってきた」とはすごい表現ですね。

最後の1ヵ月は夜通し仕事をして、朝の5時か6時ごろに会社近くのホテルへ戻り、11時ごろまで仮眠をとって再び出社……という生活を繰り返していました。

――……(絶句)

だんだんとワーキングハイのような状態になっていったんでしょうね。


――こだわりのポイントを教えてください。

原書が半世紀もトランクの中で外気に触れずに保存されていただけあって、絵は鮮やかな色合いがそのまま残っていて、圧倒的な迫力があります。カラー図版の印刷は、美術印刷にたけたイタリアでの印刷が各国語版にも義務づけられていて、とても美しいものです。

――W部長のお気に入りの図版はどれですか?

図版131の「木」のシルエットや135「世界卵」といった絵に魅かれます。それから子どものころ繰り返し見ていた夢について、この本を読んで「そういうことだったのか」と合点がいくことがたくさんありました。

「木」

「世界卵」


編集作業では、英語版とドイツ語版の両方のテキストを照合して、それぞれの間違いを訳者に修正していただくなど、発行時点では、日本語版が最も学術的に正しい内容のものだったと思います。本文は、翻訳のプロにも目を通してもらい、さらに監訳者が全文に目を通して手を入れるなど、二重三重にチェックしていただいたので、かなり読みやすい文章になっていると思います。

――本当にたくさんの人の力添えがあって出来た本なのですね。

大量のゲラが机の両側に山積み状態で、何人もの人にチェックをお願いしていました。ただ、最終的に責任を取るのは自分一人ですので、そういう意味では孤独な作業でしたね。大変な分量でしたけれど、今一気にやってしまわないとできないと思いました。(原書が刊行されてから)約半年間で訳してくださった先生方も大変だったと思います。最終原稿が届いてからほとんど1ヵ月間で仕上げまでもっていきました。訳者の先生方との関係、また組版の方との関係が出来ていないとできない企画だったと思います。人に恵まれていた企画、勢いに守られていた企画だったと言えるでしょうね。


――どういう人に手に取ってほしいですか?

人間の「こころ」の深みに関心のある方に手にとっていただきたいと思います。「私とは何者か」「魂とは何か」と問い続けている人たちに。

私たちはふだん、日々の忙しさに追われてほとんど意識することはありませんが、人間のこころの奥深くに潜む無意識の世界は、想像を絶する深みと豊かさをもっているのだと思います。その、深い世界の奥底まで降りて、ふたたび現実世界へと戻ってきたユングは、こころの奥底で経験したものやヴィジョンを《言葉》と《絵》で描きました。それが、この本です。ここに描かれているヴィジョンが、個人の経験をはるかに超えたものであることは、おそらく多くの人たちが認めるところだろうと思います。ではそれは、どこから来るものなのか。ぜひ、そうした根源的な問いかけを自らの問題として、ユングと共に考えつづけていただければと思います。


――最後に、読者の方へひとことお願いします。

この本は大型本で高価でもありますので、読書に適した形である、とは言いがたいかもしれません。今年の8月に、この本のテキスト部分だけを取り出したA5判の『テキスト版』が刊行されます。興味を持たれた方は、ぜひ、そちらをお読みいただいて、ユングと体験を共有してくださればと思います。そして、さらにこの大判の複写版も手に取って見ていただければ、とても嬉しいです。


『赤の書 テキスト版』
C・G・ユング著/ソヌ・シャムダサーニ編/河合俊雄監訳/河合俊雄、田中康裕、高月玲子、猪股剛訳
定価(本体4,500円+税) A5判並製 688頁 2014年8月刊行


――ありがとうございました。貴重なお話を聞かせていただきました。

でもあまりにも大変だったから、もう一度この本を読み返す気にはなれなかったのよ。今でもこの本を見ると「もういい」と思うんです。「こだわりの一冊」というよりも「もう十分な一冊」ですね。

――(笑笑)

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いかがでしたでしょうか。訳者の先生方と編集者、そしてデザイナーさんや印刷所の方々など、大勢の人たちが心血を注いで作り上げた、圧倒的な存在感を放つ希代の書。ぜひ一度、お手に取ってご覧いただければ幸いです。

今回は以上で終わらせていただきます。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回の更新をお楽しみに!



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